前回、杉峠ノ頭に登った記録を紹介した。そこでは時間と体力の限界と軽く書いただけであったが、今回は限界になった理由を考察する。
結論としては標高の低い雪山でもカンタンに凍傷になるので、十分な装備が必要である。
成功した登山よりも失敗した登山のほうが学びがあり、よりよい登山ができるようになるきっかけになると思うので紹介する。
失敗することは必然であったと思うような愚かな失敗を重ねている。ただイタリア(フィレンツェ)の政治思想家ニッコロさん(ニッコロ・マキアヴェッリ)が以下のように言っている。
誰だって、誤りを犯したいと望んで、誤りを犯すわけではない。ただ、晴天の日に、翌日は雨が降るとは考えないだけである。
出典;塩野七生『マキアヴェッリ語録』より
人間は度々、誤りを犯してしまう。しかし、そこから学びを得て次に活かすこともできるのも人間である。
今回は発生した問題→失敗の原因→改善策という順で失敗の紹介をしていく。
前回の登山については以下から。
発生した問題① 不十分な装備による凍傷
雪山に登ることがわかっているのに十分な準備をせずに登り始めた。挙げ句、靴紐が氷出す気温の中、短めの靴下で足首の地肌が雪と接する部分がある状態で登り続けた。
登っている時点では冷たい以外の問題点はなかったが、下山後、露出していた部分が軽い凍傷になっていることに気がついた。凍傷の部分の皮膚は水ぶくれになった。
登ってから2週間以上立つ現在でも完治していない。特に靴擦れと凍傷の部分が重なっており、表皮がズルズルに剥がれている状態になった。
凍傷については以下のサイトが詳しい。凍傷の程度は3度を最も重症とした3段階に分かれているようである。筆者は1度か2度くらいの症状であった。
低山とはいえ雪山である。凍傷については頭から抜け落ちていた。低温下である程度の時間さらされると凍傷になる可能性があるとのことである。
失敗の原因
雪が降ったから登りたいという衝動的な理由で準備もせず登った。低山の雪山で、登ったことのある登山道でもあったので、気合でゴリ押しすれば普通に登れるだろうという慢心があった。
実際にはゴリ押しでは難しく、撤退することになった。
人間の生まれ持った、痛みを感じる能力は無理をさせないための信号である。それを無視して進み続けることで、体は悲鳴をあげ、障害につながる。生まれ持った感性には素直に従うことが望ましい。
改善策
当然のことであるが、山に計画を立ててから登るようにする。事前にチェックリストを作っておき、そのリストに漏れがあった場合は山に登らないようして、準備が万全な場合のみ山に登るようにする。
自分ルールを守れるのかという問題はあるが、痛い目を見たあとなので当分は続けることができそうである。
具体的に必要な装備(最低限の装備)
雪山は下界よりもかなり気温が低くなるので、まずは服を着込んでいく必要がある。しかし着込みすぎると汗を書いて、汗冷えを起こしてしまうので、脱ぎ着できるようにして置くことは肝要である。
その他、積雪した低山に最低限必要だと思われるものをあげる。
ゲイター
雪の中を歩いていくので、かなりの体温が奪われる。ズボンの裾と靴の中に雪が侵入して冷えた。特に短い靴下を履いていたので、足首が露出して軽度の凍傷になった。
ゲイターは足首から膝辺りまでをカバーする装備である。これがあれば、足元の雪の侵入をほとんど防ぐことができる必須のアイテムである。また足元の保温ができる。
今回は持っていかなったが、軽く雪山に入るくらいであれば以下のゲイターが安価。試してみて、物足りないようであれば、有名登山メーカーのゲイターを購入したら良いと思う。
お試し用にオススメのゲイターである。
ゲイターはベルトを靴の土踏まずの部分に固定するのだが、このベルトがゆるんで外れることが多い。外れるとゲイターがずり上がり、靴の中に雪が入るので、ベルトを定位置になおす。これがなかなかのストレスである。
簡易的な措置であるが、ベルトの出てくるところに安全ピンを刺すとベルトの出し入れを固定できる。これで容易にはゲイターがずり上がらないので、快適に雪の上を歩くことができる。
スノーシュー
こちらに関しては、なくても行けなくはないが体力の消耗は激しくなる。毎歩、ズボズボと膝ぐらいまで雪に埋まるので、かなり足を上げる必要がある。
スノーシューがあると快適とは言わないが、幾分ラクに歩けるはずである。似て非なるものにワカンがあるが、スノーシューの方が雪の中に沈みにくいようである。
スノーシューはまだ持っていないので、とりあえずベルモントのスノーシューが安価でよさげなので、買って試してみたいと思う。初めてにはこれが良さそうかなと思っている。
登山靴
登山靴には3シーズン(春・夏・秋)用と冬用がある。もちろん雪山登山には冬用の登山靴が推奨される。登山靴の選び方については以下のサイトが詳しい。
筆者はずいぶん長く履いたトレッキングシューズで登っている。すぐには水が浸水してくることはないが、少しすると浸水してくるというコンディションの靴である。
直接、雪と触れ合わなければ大きなダメージにはならないので(当たらなければどうということはない)、頑張れば登れなくはないが、頑張らずに登れたほうがよいと思う人はしっかりしたものを購入したい。
アイゼン
雪山装備に必要なものとしてあげて入るが、今回のような新雪でゆるやかな登山道にはあまり必要のないものかと思う。急斜面やある程度雪が固まってきた道には必要になってくるように思う。
滑ったりするのが心配であれば、4本爪の軽アイゼンやチェーンスパイクを携行すればよいと思う。これをつければ全く滑らなくなるということはないが、ある程度の効果はある。
安価で手に入れやすく、軽くてそれほどかさばらないので、保険代わりにザックに忍ばせておくと安心できるだろう。
サングラス
今回は太陽はあまり出ていなかったが、雪からの反射もあり曇りにしてはやたらと眩しかった。晴れている場合はさらに強い紫外線にさらされることになるので、サングラスなどの対策は必須になる。
鈴鹿の山であればゴーグルまで用意する必要はそれほどないように思う。サングラスは適当なものをようすればよいと思う。夏でも樹林帯を抜けた先の日差しは強いのでオールシーズン使えるように一つ購入しておく便利。
個人的にも愛用しているオススメのサングラスは「SWANS」というブランド。価格はミドルクラスであるが、品質は上位モデルに匹敵すると思う。iPhoneでいうとSEに該当するような商品である。
とりあえず買ってみても長く使えるアイテムであると思う。筆者は7、8年使っているが、まだ十分に使える。
発生した問題② 時間の超過
時間が過ぎたので、目標に到達できなかった。当初の目的はイブネに到達することであったが、下りの時間を考えると杉峠ノ頭で撤退することが適切であると判断した。
また雪山は当然に冬なので、夕暮れが早い。下山中の大半は樹林帯を歩くことになるので、さらに暗くなるのが早い。
失敗の原因
これには2つの原因がある。
まず1つ目は駐車場への到着が遅れた。道を遠回りしてしまった。そのような事態を想定して、遅れた時間で計算して出発する必要があった。ルートを特に考えずに適当に進んでいたので、遅れるのは必然だった。
次に2つ目はすぐに登って下りることができると考えていた。普段はコースタイムより早く歩けていること、また前回登ったときも、それなりに早く歩けていたので時間の見積もりが甘すぎた。
雪については見積もりが甘く、最初の平坦な登山道には積雪がそれほどなく、快速で進めると思っていた。実際はしっかり雪が積もっており、時間をかなり食う結果になった。
改善策
これも当然の改善策であるが、時間に余裕持って出発することが大切である。早出早帰りが登山の鉄則である。
眠いからゆっくり寝てから登山をするスタイルになっていたが、登山は前日から始まっているのである。早く寝て、早くに起きて、早くに登山を始めるようにするのが登山の鉄則である。
また、初めて行くコースや積雪など普段と違う条件の場合はコースタイムを多めに見ることが基本になる。それにもかかわらず、いつもどおりコースタイムに0.8をかけたくらいの時間で登る想定をしてしまっていた。
積雪の見積もりも、途中から雪があると予測するのではなく、登山道の全てに雪があると予測して計画を立てるべきであった。
また駐車場に至る道に積雪があるパターンも考えておく必要があったと今では思う。
登山において時間の楽観的な予測はことごとく外れる。休憩や写真を取ること、コースタイムの予想よりも時間がかかるなど、細かい時間の加算がある。それは十分に理解していたはずであるのに、喉元過ぎれば熱さを忘れるではないが、楽観的計画のもと行動してしまった。
登山における希望的観測は外れると肝に銘じておきたい。
発生した問題③ 食料の不足
すぐに登って帰って来れるだろうとの予測のもと、700mlのコーラのみで行動した。実際にガス欠にはならなかったが、体温がなかなか上がりにくく、余計な体力を使わないように気を使う必要があった。特に体温が上がらないので、体が冷えやすく、足元まで温かい血流が巡りにくくなってしまった。
また今回はガス欠になっていないものの、雪山は雪をかき分けて、滑りながら登ることになるので通常の登山よりもかなりエネルギーを消耗する。その点を頭に入れて置かなかったのは明らかな失敗である。
失敗の原因
個人的にコンビニによるのが少々面倒で食料の買い足しをしなかった。また朝食に消化に時間のかかるおもち(腹持ちがよい)を食べていたので、登りに使うエネルギーは十分にあると判断した。
つまりは面倒なので、都合のよい解釈をしたということ。
改善策
こちらにも登山に向かうためのチェックリストに十分な食料という項目を追加して、その項目にチェックを入れられなけらば、登山に行くことを中止にする必要がある。
コーラに全幅の信頼をおいているが、やはりまとまった量の固形物は必要である。
発生した問題④ 生体機能の変化
低温下での人間の生体機能の変化を考慮に入れていなかった。
今回の山行中に、両太もも裏(ハムストリングス)、両ふくらはぎ(腓腹筋)のこむら返りがあった。無雪期の登山でこむら返りはしたことがなかったが、4ヶ所脚をつるという自分の身体的には異常事態になった。
失敗の原因
低温下登山では、下界とは違う生体活動になる可能性があるので、それも含めて余裕を持った登山を励行する必要がある。
積雪のない時期と同じような雰囲気だと思って、いつもと同じように登山をした。体温が低下した状態では、普段と同じようには身体は動いてくれなかった。
改善策
雪山でどのような身体反応が出るかを短めの雪山登山から練習を初めて、無理のない範囲で雪山に慣れてから長時間の登山に移行すると勝手がわかるようになる。
ただし身体の不具合はいつどこで出るかわからない。不具合が起きた際に対応できるだけのバッファが必要で、常に余裕を持って登るのは鉄則である。
発生した問題⑤ 下山後の障害継続
問題①と少々重複するが、問題が発生するのは登山中だけではない。登山中に発生した負傷はその後の生活にも影響する。
僕は軽度の凍傷と靴擦れが併発しており、登山から2週間以上経過しても、患部が少々痛む。少し歩くだけでも痛むこともあり、QOL(Quality of Life 生活の質)が下がる。
登山はQOLを上げる素晴らしい趣味だが、その登山がQOLを下げているのは世話がないので、きちんと計画を立てて、無理なく帰ってこれるようにすることは必須である。
失敗の原因
無理して登ることが後日にまで続く、損傷を招くとは考えていなかった。また元気に帰宅するまでが登山であること忘れていた。
息も絶え絶えになっても帰りさえすればよいという意識で途中からは歩いていた。「元気」に帰宅することまで、計画とするべきである。
改善策
無理せず万全な状態で下山することは、その後のQOLに関わってくるので、やはりこちらも登山計画を入念に立てることが必要である。
前日の良き睡眠、当日の計画通りに歩き、その後には疲労を残さない山行にするには、無理なく実行できる計画をたてる必要がある。高望みせず、コースタイムも眺めの設定で計画することが肝要。
総括
世に出すことがはばかられるので、明るみにはあまり出ていないかもしれないが、登山での失敗はよくあることだと思う。失敗を積み重ねて、その上に改善を重ねることで安全な登山ができるようになってくるように思う。
今回は簡単な計画と準備さえしていれば、特に問題なく登って下ることができたはずである。しかし、想像を絶するルーズさでこのようなことになってしまった。死んでいたらダーウィン賞ほどではないが、かなり愚かな死に様になっただろう。
登山は一歩間違えれば、簡単に死ぬことができる活動であることを忘れずに登るようにしたい。
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