登山の経験はそれなりにあり、基本単独行の僕が初めて沢登りをした際に準備したこと、考えたこと、実際に必要だったことを紹介する。
どの沢を選択すればよいのか、何の道具が必要なのか、どんな能力が必要なのかを調べて準備した。
結論からいうと、登る沢は初級で簡単な沢を選択し、最低限必要なモノは通常の登山道具にプラスして「ヘルメット」だけ持っていけば沢登りは楽しめる。
本格的に始れば別だと思うが、入門であれば特殊な道具は必要ないので、登山経験者なら少々の覚悟があれば簡単に始めることができるだろう。
普通の登山をある程度余裕を持ってこなせるようになってきたので、さらに山遊びの幅を広げたい方の一助になればと思う。
通常の登山よりはるかに難易度が上がるものの、もの凄く楽しいので十分な準備と注意をした上での沢登りをオススメする。
初めて行った感想は一言でいうと「楽しかった!」だ。
初めての沢登りは鈴鹿山脈の元越谷にした。以下が初めての沢登り記録だ。
沢登り初心者が考えたこと発表しているので、本格的に沢登りを進めて行きたい方は書籍等で学習することをオススメする。
また後編では改善点などを考えた。
登る前の調査と道具準備
登る前にまず考えたこと
ソロで新しいことを始める時は勝手が何もわからない。とりあえずやってみるの精神が重要だと思う。まずどの沢を選ぶか、講習に参加するか考えた。
どの沢に登ればよいのか
実際にどのようにして登ればいいのか皆目検討がつかない。普段の登山では登山道を調べて、地図のとおりに歩けばよいが、その登山道が存在しない。
沢という明確な道しるべは存在するが、すべての道を遡行できるかが不明である。どの沢を登ってよいかもわからない。登れる沢なのか、登れない沢なのかがわからない。
先駆者の山行記録をネットから探してきて、遡行ができること、沢のレベルが低いことを確認して沢に向かった。例えば僕は「鈴鹿 沢登り」という感じで検索した。
ネットで調べられる情報はあくまでも断片的な内容なので、実際に登ってみるまではイメージは掴めなかった。ある程度調べたら行ってみるのは重要だ。
山岳会などの講習に参加するか
僕の精神構造上は新しくグループなどに入って沢登りを始めるということはできなかった。山岳会などに入れば、実地で沢への登り方を学ぶことができ、効率的に沢登りを始めることができたであろう。
沢登りを始めるのであれば間違いなく山岳会の講習などに参加することがベターだ。
ただ色々準備をしていかないとダメなのだろうか、一回だけ参加するだけではダメなのだろうか、継続して参加するのも面倒なのでは?と思いが捨てきれなかった。
バッと参加すれば多分問題はないのだろうが、いまいち乗り切れなかったので参加しなかった。
登山経験はそれなりに積んでいると自認しているので、初めて単独でも問題ないだろうと考えた。特に鈴鹿はよく歩いているので、大丈夫だろうという安易な考えもあった。
後述するが、その考えは覆された。普通の登山道とは段違いの難易度だった。
死なないために考えたこと
一番重要なのは死なずに帰ってくることである。そのために何をしたらよいか考えた。
危険箇所の回避
危険なところにぶつかった場合は、回れ右で帰ればよい。その潔さがあれば問題ないと考えた。
まず間違いなく沢登りをしていれば、危険な場所にぶつかるだろう。その場所は回り込んで突破するか、引き返せばよいと考えた。
「君子危うきに近寄らず」の頭の片隅に入れながら歩けば問題ないだろうと考えた。危険なところに近づかなければ、危なくはない。当然のことだ。
無理して突っ込んで死ぬのは愚かだ。
寒さはどれくらい感じるのか
通常の登山をしていても思うことが沢の水の冷たさだ。汗だくになった身体を冷やすため、また顔を洗ったりするために沢の水の冷たさを気持ちよく利用してきた。
その冷たい沢に全身入ると間違いなく、一気に体温が奪われる。その状態でどこまで歩けるか。どのように体温を奪われないように対策をするかを考えた。
これには楽観的に少々厚めに服を着ておけば問題ないだろうと判断した。具体的には冬用のインナーと薄めの上着だけでよいと判断したが失敗だった。
遡行グレードの選択
沢の選択の際に考慮する必要がある。
遡行の記録を見ていると遡行グレード(ルートグレード)というのが出てくる。山と渓谷社『ヤマケイ入門&ガイド 沢登り』によると
- 1級:入門
- 1級上:初級
- 2~3級:中級
- 3級上:上級
というようなグレードになっている。1級、1級上は初心者でも遡行できるようなので、グレードの低い沢を選択した。
指標としてグレードがつけられているのは、沢を選択する上で参考になった。インターネットを調べてみると、グレードまで記載しているブログも多々あるので、それを参考にするとよいだろう。
今回遡行する元越谷は1級上である。
天気を確認
上流で天気が崩れると鉄砲水の危険性がある。上流で降った雨が一気に流れてくる鉄砲水に出くわせば命はない。
余談だが以下の『釣り人の「マジで死ぬかと思った」体験談』シリーズで度々渓流釣りの話があり、その中の一つに鉄砲水の話がある。僕はこの本で沢の危険性を学んだ。
登山の本ではないが、渓流釣りと沢登りは似たもので、笑える話から学びのある話まで多様な話が詰め込まれていてオススメできるシリーズである(海釣り、川釣りなどもあり、渓流釣りがメインの本ではないので注意)
天気の崩れそうな日は選択しないようにした。また遡行中も天候の崩れは気にしながら登るようにすれば問題ないだろうと判断した。
持っていく道具を考えた
沢登り何が必要か全くわからない。冒頭でも述べたが、通常の登山道具にプラスしてヘルメットを持っていけばよいと判断した。
登攀道具は必要なのか
今回選択した1級上の沢では登攀道具は必要ないとの情報があったので、特になにも持っていかなかった。通常の登山と同様の持ち物で向かった。
実際に登ってみても登攀道具は必要はなかった。手を使って登っていくところはあったが、大きな危険を感じるようなところはなく、空身で特に問題はなかった。
通常登山と変わりない道具で始められるので、登山経験者であれば気軽に始めることができるのではないかと思う。
服装は何がよいか。
必要そうなのは以下の3点かと思った。膝当てなどはとりあえずは無しでよいと判断した。
- 上着
- ライフジャケット
- ヘルメット
上着
上着は必須になるだろうと予測して持っていった。沢の水が直接かからなくなり、若干寒さがマシなような気がした。
またインナーは冬用のものを用意して途中から着た。しかし濡れてしまうと保温性は著しく低くなり使い物にならなくなった。
ウェットスーツを使えばよいのかと思ったが、動きにくくなるというデメリットがあるので着用しないことにした。泳ぎが多い沢ではウェットスーツを持っていってもよいという記事も見た。確かにそうかもしれない。
ライフジャケット
ライフジャケットは持っていった方がよいのではないかと考えたが、それほど泳ぎはないだろうと判断してライフジャケットは持っていかなかった。
実際にそれほど泳ぎは多くはなかったが、泳いでいる最中にこむらがえりをした場合など不測の事態に備えて持っていくべきであると思った。
特に単独行では助けてくれる人がいないので、リスクをなるべく減らすためにライフジャケットは着たほうがよいだろう。
もしくはリュックにからのペットボトル等を入れておいて、浮き輪のように使用してもよいのではと考えた。ペットボトル等がなくても濡れていないリュックは多少の浮力があった。リュックを大体としてもよいと思う。
ヘルメット
沢の石は滑りやすい。そして石や岩が散乱している。少しバランスを崩すだけでも沢の岩壁に頭を打ちつける可能性がある。
人体の急所はなるべく用心して保護しておく方がよいと感じた。ヘルメットを着用しないのは命知らずの蛮行だ。
コケなければなくても問題はないが、絶対にコケないとは誰にもいえないだろう。装備する方が無難だ。
実際に沢登りして必要だったもの
必要な道具
必要そうなものは上着、ライフジャケット、ヘルメットと考えたが、結局何が必要だったかというと
- ヘルメット
- 上着
くらいで他は通常の登山と同じ装備で問題はない。上着も夏でも持っていくことは基本だと思うが念のため挙げてみた。
また以下のものもあれば、もう少し快適に沢登りを楽しめるのではないかと思った。
- 温かい飲み物
- レインウェア
- 防水の袋
- 同行者
- 専用の靴
温かい飲み物
沢の水はかなり冷たい。山から湧き出た水が深い谷の底で、森の影に隠れて流れるので冷たい。太陽光で全く温められていない。
大幅に奪われた体温はすぐには戻らない。温かい飲み物を飲めば一時しのぎにはなるだろうと感じた。
ブルブル震えながら登るのは少しキツイと思う。少しでも体温を上げるために工夫が必要だ。
レインウェア
流れてくる水を一旦弾き飛ばす役割があるようだ。直接冷たい水に当たらないことで体温の低下を遅らせることができるように思う。
少しでも体温を落とさないようにしたい。
ウォータースポーツ用のウェアがあれば、さらに寒さはマシになるらしい。試していないのでわからない。ウェットスーツは体温で温められた水を保持することで、身体を冷えから守る。そのような感じなのかと思う。
防水の袋
リュックは中まで濡れる。雨の中を歩いたりしても中味がベタベタになるほど濡れたことはなかったので、大丈夫だろうと思っていたが、さすがにガッツリ濡れていた。
それほどの泳ぎは多くはないといっても数回は泳ぎがあった。最初の2、3回は中身は濡れなかったが、徐々に濡れてきた。
多少防水性のあるものに入れていたが、リュックの中身自体が水没するくらい濡れたようで、完全に防水できる専用の袋を用意する必要性を感じた。
またスマートフォンなどの電子機器は確実に濡れないようにするために、袋に入れる必要がある。
同行者
単独行者としては最大のハードルかもしれない。
しかし単独行者のリスクを低減するためには、同行者はいた方がよい。ただし単独行ができなくなるというデメリットがある。トレードオフで判断しよう。
専用の靴
僕は地下足袋を履いていったが、専用の滑りにくい靴を履けば快適さは増していたと思う。僕の地下足袋は土の上では滑りにくいが、岩の上では濡れていなくても滑りやすく、濡れた沢の岩の上を歩くにはツルツル滑って難儀した。
滑りやすさが遡行の難易度に影響していると感じた。
必要な能力
基本的な登山能力
沢を登ってみて基礎的な登山能力が必要だと感じた。
経験者と同行するのであれば、登山経験は必要ないかもしれない。単独行で行うには十分な登山経験を有している必要がある。必要だと感じたのは以下のとおりだ。
- ルートファインディング能力・読図能力
- 十分な体力
- 読図能力
- 岩登りの基本技術(三点確保)
ルートファインディング能力・読図能力
沢を登るだけなので、沢の中を歩いていれば特段問題はないかもしれない。
しかし沢の中でもどこを歩けばよいか、支流とぶつかった時にどの沢を遡行すればよいか、高巻きの際にどこを歩けばよいか。これらの判断を下す必要がある。
高巻きする際に歩いた先がどのような地形であるかを予測する必要があり、なるべくゆるやかな方や崖を避けるように地図を読む能力が必要だと感じた。
わかりやすい登山道しか経験がなければ、この道であっているのかという不安での精神力を消耗し、険しい道での体力を奪われる。
また誤ったところに歩いていけば、一気に危険性が高まる。正しい道を選択できるルートファインディング能力は必須だ。
この道で問題ないと自信を持って進めるレベルでないと難しい。
十分な体力
通常の登山よりも難易度が高く、慣れないので精神的にも消耗が早かったように感じた。また体温が奪われるとさらに消耗が早くなった。
普通の登山を余裕で登れる体力が必要になる。十分な余裕がないと滑落、溺れるなどのリスクが急激に高くなると感じた。
岩登りの基本技術(三点確保)
今回の沢はグレードが低いので高い技術は必要とはしないが、最低限の岩登り技術は必要だ。
難易度が低い沢であれば、三点確保をキチンとできるレベルであれば問題はないと思う。三点確保は以下の図の通り、手足のそれぞれ3点で岩をとらえて残りの1点を動かす基本技術である。
三点確保は簡単なようで難しい。右手だけを動かしているつもりが、左足も岩から離してしまっていることがよくある。
落ち着いてきっちりできるようにしておきたい。
とりあえずやってみようの精神
いろいろ書いてきたが、やってみなければ始まらない。新しく始めることは恐怖であるが、楽しくもある。
登山を慣行しているひとであれば、とりあえず行ってみればなんとかなるだろう。形は揃えず行ってみれば何が必要かわかるようになる。
形から入りたい人もいると思うが、僕はとりあえず行ってみようの精神構造なので行ってみた。
総括
冒頭でも書いたが、結論としては普段から登山に親しんでいる人でグレードの低い沢を登る場合であれば、ヘルメットを持っていく他は特殊なモノは必要がない。
それなりの登山経験者であれば難なく、沢登りに入門できると思う。あまりハードルを上げすぎず気軽に楽しんでみたらよかったのだと思った。
ただし通常の登山よりは難易度がかなり高くなるので、初心者が単独で沢登りに挑むことは避けたほうがよいのは間違いない。
コメント
最大の問題は鳶や大工向けの地下足袋だと思います。滑るゴム底で沢に挑んだのは、技術云々以前に単なる無謀だと感じました。
地下たびは、昔から愛用者の多い沢登りの足元では有りますが、それは必ずわらじとセットです。
どうしてもわらじの利用が難しければ、フェルト底の渓流たびか、渓流シューズが釣具店などで入手可能なのでそちらを利用すべきです。
地下足袋でなく、普通の足袋を使えば多少滑りにくくはなるかもしれませんが、とにかく沢登りにゴム底で臨むのは、はっきり言って自殺行為です。
正直ノーヘルで登るより無謀な行為だと思います。
極論すると、ノービレイで岩に登るか、ノーヘルで岩に登るかの違いみたいなもので、今回はたまたま事故が無くて良かったですねって感じです。
コメントありがとうございます。当然のご意見だと思います。今回は使用した地下足袋が滑ることとは承知の上で試してみましたが、案の定ダメでしたので次回以降はきちんと用意して登ります